メンターを始める時に考えていること
こんにちは、大前です。
最近は AWS 認定インストラクター(AAI) として活動をしていますが、その前は自身の業務の傍ら色々な場面でメンターをする機会が多かったです。 社内メンバーのメンターはもちろん、時にはパートナー会社やフリーランスの方のメンターをさせていただく機会もありました。
一方で、私自身は業界経験が長いわけでも、めちゃくちゃ高い技術力もコミュニケーション能力もないので、四苦八苦する事も少なくありませんでした。
最近は AAI として活動しており、メンターをやる機会もめっきりなくなったため、せっかくなのでこれまでの経験をもとにメンターをするときに考えていたことや実践していたことなどをまとめてみようと思います。
これからメンターをやる機会のある方や、メンターをやっているけど上手くいっていない方などに、ちょっとでも参考になれば幸いです。
メンターは難しい
そもそもの前提として、社会人でメンターをやるのはめちゃくちゃ難しいと思います。うまいことメンターやってる人、本当にすごいと思います。
社会人のメンターが難しい理由は色々あると思いますが、大きな要因を占めるものとしては、メンティー(メンターからサポートを受ける側)になり得る人が多様であることが挙げられると思います。
例えば高校の部活動などであれば、上級生が下級生に教える関係性になることがほとんどですので、年齢も差も基本的にほぼ固定、個人的なばらつきはあれど経験してきたことも基本的にある程度の共通点があると思います。(あくまで例です)
一方で、社会人のメンターでは様々な人がメンティーになり得ます。一言に年下と言っても、1~2歳下の人もいればひとまわり以上年下の社員をメンターする機会がありますし、場合によっては自分より業界経験豊富な方のメンターをする機会もあると思います。また、メンティーのスキル、バックグラウンド、性格や価値観まで、学校の部活動とは比にならないくらい多様です。(さらに、これはメンティー視点でも同じことが言えると思います)
当然人と人が関わる以上相性なども存在するため、社会人のおけるメンターはこうすれば良い、という銀の弾丸を用意することも難しいです。
メンター経験のある方であれば、頷いて頂ける部分があると思います。
筆者がどんな環境でメンターしていたか
メンターと一言にいっても、業界や会社によってメンターの立ち位置や環境は様々だと思います。そのため、私自身の考えを述べる前に、どういった環境でメンターをしていたかを簡単に説明します。
私は AWS 事業本部というところでお客様に対する AWS に関する支援を主な業務として行なっていました。 具体的には、お客様の代わって AWS 環境を構築したり、AWS をより活用していくためのコンサルをしたり、といったイメージです。 チームを組んで開発するタイプの業務ではないため、案件に携わるメンバーは少数であることが多いことが特徴です。多くても 2-3人とか、1人で案件を進めることも珍しくありません。
そのため、入社したばかりのメンバーや、まだスキルが未熟なメンバーが案件対応を行う場合には、メンターがついてサポートする仕組みになっています。
複数人で開発するタイプの業務であれば、例えばメンティーには一部機能の開発やテストの実施など比較的難易度の低い業務をお願いする、といった進め方ができると思いますが、私がメンターしていた環境は少人数で進めるタイプの業務がメインであるため、基本的にメンティーに色々なことをしてもらう必要がある、という部分がポイントかと思います。
当然、未熟な部分があるからメンターがついているわけなので、メンティーの能力に合わせて一部作業をメンターでサポートしたり、巻き取ったりといった動きが必要になるのですが、上記の通りメンティーは本当に様々な方がいるので、ここの塩梅を見極めるのが難しいです。
個人的な性格の話も述べておくと、筆者は結構人見知りがひどいタイプなので、雑にメンティーを飲みや遊びに誘って関係性を構築する、みたいなことはできないです。ポジティブに捉えると、私のようにコミュニケーション能力が高くない方でも実践してもらえるような考えを一つでもお伝えできればと思っています。
本エントリで話すこと
メンターをする上では様々なイベントが存在するかと思いますが、本エントリでは "メンターをすることが決まった直後に考えること" にポイントを絞って話を進めていきます。
理由としては、業務が始まった後のメンティーとのコミュニケーション術などについては、世にたくさん情報があると思うので改めて記載する必要がないと考えたのと、メンター業務を進める中で発生する悩みや困りごとのほとんどは、メンターを始める際の準備やアクションによって解決できることが多いと考えているためです。
メンターをすることが決まった後に実施する 3ステップ
実際はこんな綺麗に思考を整理していたわけではないですが、文字に起こすにあたって、メンターをすることが決まった後に実施するアクションを 3ステップでまとめてみました。
- メンターに対する組織としての期待を把握する
- メンティーの今の状態をメンティーから聞き出す
- コミュニケーション方針に関する共通認識をメンティーと持つ
それぞれ、詳細について説明していきます。
1. メンターに対する組織としての期待を把握する
メンター制度が存在する目的や、メンターに期待されていることを意識されていますでしょうか? もしこの部分を意識したことがない場合は、一度上長などと会話してメンターに期待していることを認識合わせをしておくことをおすすめします。
この部分をちゃんと把握しておくべき理由としては、メンターとしての行動指針を明確にすることが目的です。 メンターが組織としての目的や期待を意識できていない場合、各メンターが自身の考えや思いつきに基づいてメンティーのサポートを行なってしまうため、組織との乖離が生まれてしまう可能性があります。
極端な例ですが、組織としては自社の業務理解やプロジェクト管理スキルを向上させてほしいと考えているのに、メンターはメンティーの技術力を磨くことに注力してしまった、なんてケースが考えられます。こうした事態が起きると、色々な悪影響が発生するのは想像に難くありません。
一方で、組織としてのメンターに対する期待などを把握しておくことで、たくさんのメリットが生まれるはずです。以下に、私が考えるメリットを記載します。
メンターとしての方向性を自分で考えなくて良くなる
メンターになる方はほとんどの場合、特にメンターとしてのトレーニングを受けていない方がほとんどだと思います。(しかも、多くの場合でメンターになる瞬間は突然訪れます)
そのため、何をすれば良いのか、どういうサポートをすれば良いのかわからなくなってしまうことが多いと思います。
一方で、組織としての期待を把握しておくことで、メンターとしてどういう部分に注力するべきなのかが自明になるため、メンターとしての方向性を自分で考える手間を大幅に減らせるはずです。
さらに、メンターの方向性を浸透できている組織であれば、他のメンターも同じ目的に基づいてメンターをしているため、困った時に他のメンターからサポートも受けやすくなります。
実際に私が所属していたチームではある程度メンターとしての目的が明文化されており、定期的にメンター間で情報交換する機会もあったため、今困っていることや対応方針などについて他のメンターに相談することができ、非常に心強かったです。
メンターとしての振る舞いに一貫性が生まれる
組織としてのメンターへの期待を把握しておくことで、メンターとしての振る舞いに一貫性を持たせる事もできます。
自身の考えだけでメンターをしてしまうと、基盤となる考えが存在しないため、その場の思いつきや状況によってメンターとしての振る舞いが変わってしまう可能性があります。最悪、メンティーが不安を感じる、メンターに対する信頼感がなくなる、等のケースにつながる恐れもあります。
一方で、組織としてのメンターへの期待を把握し、それに沿った行動や発言を心がけることで、メンターとしての振る舞いに一貫性を持たせることができます。これによって、メンティーに対しても安心感を与えることができると思います。
また、メンター自身も「組織の期待に沿って行動をしている」という自覚が持てるため、自身を持ってメンティーに接することができる様になります。メンティーが一回り年下であろうが、年上のベテランであろうが、「組織としてこうなので、こういうサポートをします」と伝えることができるはずです。
メンター自身の評価につながる
また、組織としての期待を把握し、それを達成するようにメンターとして行動することで、組織としての期待に応える形になるため、メンター自身の評価にも繋がるはずです。
最初に上司から期待値を聞き出しておけば、あとは評価面談などで「メンターに対する期待に応えるような活動ができました」と自信を持って伝えてください。メンターをすることによって自身の評価にもつながる状態が作れたら、最高じゃないでしょうか。
2. メンティーの今の状態をメンティーから聞き出す
メンターをする場合、ある程度メンティーのスキルや経験などの情報を上長などから伝えられてるケースがあると思います。 一方で、こうした第三者から得た情報だけを頼りしてしまうと、例えば以下の様なミスマッチが起こり得ます。
- メンター ... メンティーは資格色々持ってるし技術力は問題なさそうだな、〇〇のプロジェクトにも所属していたって上司からは聞いてるし今回は大丈夫だろう、基本お任せしちゃおう
- メンティー ... 資格は持ってるけど実務経験はあまりないからメンターからのサポートが欲しい、、、前に所属してたプロジェクトもあまり深い関わりできてないし、、、
この解決策としてはシンプルで、「メンティーと直接会話する」が手っ取り早いと思います。メンターをすることになったら、プロジェクトが始まる前にメンティーと会話する時間を確保してメンティーの現状や自己認識について聞き、メンターとメンティー間で共通認識を持っておくことでよりお互いズレの無い状態でコミュニケーションができる様になると思います。
私の場合は、初めてメンターをするメンバーの場合は 30分ほど時間をもらって会話するようにしていました。素直に「スムーズにコミュニケーション取りたいから〇〇さんのこと教えて〜〜」みたいな雰囲気で会話をお願いしていました。メンティーからしても、初めて関わるメンターに自分からコミュニケーション取りに行ける人ばかりではないと思いますので、最初はメンターから会話する時間を確保してあげるのが良いと思います。
具体的な会話の進め方は色々あるかと思いますが、個人的に意識していることを紹介します。
- メンティーの現状について、具体的に何を把握しておきたいか事前に整理する
- 会話の目的やメンターとしての行動指針をメンティーに伝える
- 整理しておいた項目について、メンティーに現状認識を聞いてみる
- 目標やメンティー自身の期待について聞いてみる
- 会話した内容を改めて振り返り共通認識として持つ
1. メンティーの現状について、具体的に何を把握しておきたいか事前に整理する
「メンティーの現状」といっても、技術スキル / 自社の業務理解 / 顧客折衝 / プロジェクト管理 / コミュニケーション能力 / etc... と様々な軸が存在します。そのため、メンティーと会話するまでに、事前に「メンティーの何を把握しておきたいのか?」を整理しておくことをオススメします。
把握したい項目の整理に役立つのが、先ほど挙げた「1. メンターに対する組織としての期待を把握する」です。組織としてどういう能力をメンティーに身につけて欲しいのか、等の方針を確認できていれば、把握すべき項目のピックアップは簡単に行えるはずです。あとは、メンター自身の経験をもとに、追加で把握しておきたい能力などをピックアップしておくのも良いと思います。
2. 会話の目的やメンターとしての行動指針をメンティーに伝える
いよいよメンティーとの会話です。今まで全く関わったことがないのであればメンター自身の自己紹介から始めるのも良いと思います。
事前に用意しておいた項目について聞く前に、この時間の目的や、メンターをするにあたってどういった考えをメンター自身持っているかを伝えておくことをオススメします。いきなり色々質問されると、メンティーが困惑する可能性があるので、目的などの前提部分についてまずは共通認識を持っておくとスムーズに会話が進むと思います。
この時間の目的としては、素直に「〇〇さんのこと全然知らないから知りたい」「せっかくなら良い関係性でコミュニケーション取れる様にしたい」など率直なメンター自身の気持ちを伝えれば良いと思います。個人的には、こういった率直な気持ちをあえて吐露することも関係性を築いていくポイントかなと思っています。
メンターとしての行動指針については、「1. メンターに対する組織としての期待を把握する」部分で把握した内容をメンティーに伝えつつ、このあと色々質問させて欲しいことを伝えます。「組織として〇〇さんにはこうなってほしいから、まずは〇〇さんの現状を正しく把握したい」みたいな表現で伝えると良いと思います。
3. 整理しておいた項目について、メンティーに現状認識を聞いてみる
この時間の目的などについて共通認識を持つことができたら、事前に整理しておいた項目について、メンティーに聞いていきます。
聞き方は人それぞれだと思いますが、個人的には「どういうことを経験してきたのか」から質問を始めるように意識しています。「〇〇に関する知識どのくらいある?」といった直球の質問はなかなか答えるのが難しいからです。(私も「AWS できる?」と聞かれたら答えに困っちゃいます)
一方で、経験については自身がやってきたことを伝えれば良いので、誰でも答えられます。メンターは、メンティーの経験を聞きながらメンティーの現状についてクリアにしていき、時には「そしたら〇〇に関する知識はこのくらい持ってる認識であってる?」といった風にメンティーとの共通認識を固めていきます。
また、注意したい事としては、メンターが持っている情報やイメージを押し付けるような表現をしない事です。 例えば「XX さんはあのプロジェクトにいたんだよね?じゃあ 〇〇 は詳しいから大丈夫だよね」みたいな質問です。こう言った質問をしてしまうと、メンティーが萎縮して正しい状態を把握できなくなってしまう可能性があります。自分の持っている情報は一度すべて忘れて、目の前のメンティーから発せられる情報だけを受け止める意識を持つと良いと思います。
大事にしたいことは、メンティーに語ってもらうことです。メンターはなるべくメンティーがたくさんの情報を引き出すような質問をしてあげることで、第三者からは得られないメンティーの現状について情報をもらうことができます。これはコーチング的なスキルが必要な部分でもあるので、コーチングの経験がある方であれば慣れたものかもしれません。コーチングの経験がない方は、一度本を読んでみたり、上長にコーチングの研修を受けさせてもらうようにお願いするのも良いかもしれません。
もしメンティーが話してくれる内容と自分が知っている情報に乖離があると感じたら、「上長からは 〇〇 って聞いてたけど実際は違ったりするの?」みたいに素直にメンティーに現状を聞いてみるのも手だと思います。
また、メンティー自身に色々話してもらうことで、オートクラインを引き起こす副次的な効果も期待できます。ぬいぐるみに話しかけると思考が整理されるというアレです。メンティー自身が自分の情報について声に出して発することで、メンティー自身が新たな気づきを得たり、思考の整理をするきっかけが作られる事も期待できます。
こうした様々な会話を通して、事前に用意しておいた項目について、メンティーの現状を把握していきます。私は頭の中で把握するにとどめていますが、事前に用意した項目をメンティーに見せて、会話しながら一緒に埋めていく、みたいなやり方も良いかもしれません。
4. 目標やメンティー自身の期待について聞いてみる
メンティーの現状がある程度把握できたら、メンティー自身の目標や期待について聞いてみます。一緒に取り組むプロジェクトで成し遂げたいことや成長したいことだけでなく、長期的な目標や将来のキャリアプランなど、メンティーから様々な情報を引き出してみます。
「1. メンターに対する組織としての期待を把握する」にて確認した内容とも照らし合わせて、メンティーの目標をよりブラッシュアップするのも良いと思います。
これにより、よりメンティーの現状について正しく把握することができ、また目標やなりたい姿についての共通認識を持つことで、メンティーへのサポート方針もより決めやすくなります。
3. コミュニケーション方針に関する共通認識をメンティーと持つ
ここまでの内容を通して、メンティーの現状について把握できたら、最後にメンターとメンティーのコミュニケーション方針について共通認識を作ります。
個人的には、整理した各項目について、コミュニケーション方針をそれぞれメンティーを認識合わせすることが多いです。
例えば、項目として "技術スキル" "自社の業務理解" "顧客折衝スキル" の 3つがある場合、以下のようなイメージでそれぞれコミュニケーション方針をメンティーと決めていきます。ここまでメンティーと共通認識を持てたら、大分スムーズにメンターとして活動できそうに思えませんか?
- 技術スキル
- メンティーの技術スキルは高く、学習意欲も高いため、技術スキルに関連する部分は基本的にメンティー自身で解決を目指す
- 困ったらメンティーからメンターに相談をしてもらう
- 自社の業務理解
- メンティーは最近入社したばかりで自社の業務理解が浅いため、特にプロジェクト開始直後はメンターから手厚めにサポートする
- プロジェクト初期はメンターからメンティーに必要な情報を渡す、慣れてきたら徐々にメンティー主導に切り替える
- 顧客折衝スキル
- メンティーは顧客折衝経験はあるが、メンティー自身はまだ不安
- 顧客との定例会の進行はメンティーに主導してもらうが、事前にアジェンダの確認や不安事項の相談をメンターと行う
個人的には、メンティーに対するフォローの仕方やタイミングについても軽く会話する様にしています。たくさん指摘を貰いたい人もいれば、あまり頻繁に指摘されたくない人もいるはずなので、人柄を知るという意味も含めてメンティーの希望を聞いておく様にしています。ここについても、上で用意した軸についてそれぞれ会話ができるとより良いと思います。
また、一日一回近況を確認させてもらうね、の様に具体的なルールまで決めておくのも有効かと思います。細かいかもしれませんが、こう言ったルールを決めておくと、毎回「メンティーに状況聞きたいけどしつこいと思われるかな・・・」みたいな細かいメンターの悩みがなくなります。一方で、メンティーの希望を尊重するだけでは成長に繋がらなくなってしまうので、メンターとして必要だと思うフォローは適宜しますよ、という旨はしっかりと伝えておきましょう。
(おまけ)実際にメンティーと会話する際に利用したアジェンダ例
付録(?)として、実際に私がメンティーと会話する際に用意したアジェンダの例をおいておきます。大した内容ではありませんが、よければご参考ください。
## ゴール - ○○さんの今までの案件経験について認識合わせをする - ○○さんが今回の案件に期待している事/不安な事を認識合わせする - 本案件において、メンターからどの様なフォローをしてほしいか認識合わせをする ## アジェンダ - 今までの案件経験について - 今回期待している事/不安な事 - 今回メンターに求める事 - その他なんでも
おわりに
自身の経験をもとに、メンターになった際に意識しておくべきことを 3ステップにまとめてみました。実践できている方からすれば当たり前のような内容ではありますが、メンターをこれからやる機会のある方の参考になれば幸いです。
また、人が関わる部分ですのでこれをすれば何でも解決というわけでもありません、一つのヒントとして頂ければ幸いです。
以上、AWS 事業本部の大前でした。